市民社会として近代国家が成立したころは、国家の果たすべき役割を、社会秩序の維持と外敵からの防衛など必要最小限にすべきだと考えられ、夜警国家といわれた。
資本主義が発達し、労働者階級が力を持ち始めると、経済活動や労働問題、さらに社会的弱者のための社会福祉対策などに国家の役割が拡大されるようになった。このような国家を福祉国家という。
社会の複雑化と国民の要求の多様化は、国家の機能をますます拡大させた。教育や文化なども含め国民生活のほとんどの分野に行政がかかわるようになった。このため、行政機関の数や規模も拡大し、公務員の数も増大した。行政権の拡大は、必然的に国家の運営における行政部のウエイトを増加させ、行政国家とさえよばれるようになった。
国会は国権の最高機関であり、民主政治の理想型として、「強い議会・弱い政府」が望ましいとされている。しかし、行政機能が拡大するにつれ、立法においても行政主導の政府提出法案が多くなり、さらに法律の委任によって政令や省令で定める委任立法も増えている。議会には、国民にかわって行政を監督する役割があるが、行政が専門的・技術的になる傾向が強まり、その役割をじゅうぶんに果たすことがむずかしくなっている。この傾向が強まれば、議会優位の原則はくずれ、行政権の優越をまねくおそれがある。
行政権の優越が進むと、行政の担当者である官僚が大きな力をもつことになる。明治憲法の下では、天皇の官吏として権力を行使し、官僚支配とともに官尊民卑の風潮さえ作り出した。
しかし日本国憲法では、「公務員は、全体の奉仕者」と規定され、行政の民主化が進められたが、行政機能の拡大する中で、官僚の果たしている役割は大きい。
行政の民主化を進めるには、第一に行政監督の責任をもつ国会が、国政調査権などの権限を生かし、行政をチェックすることである。その意味で国会議員の責任は大きい。
第二に、行政の民主化の一環として制度化されている行政委員会や審議会が、国民の立場に立って機能を果たすことである。
第三として、国民が直接行政を監視し、行政の過程に参加することである。このためには、国民の知る権利が情報公開制度として確保される必要がある。多くの地方公共団体がすでに実施しているが、行政監察官(オンブズマン)制度を採用するのも一つの方法といえる。
行政に不満をもつ市民の訴えを受けると、その訴えが正しいかどうか判断し、正当であれば行政に対して是正・勧告をおこなう権限を持つ制度である。
1809年、スウェーデンではじめられ、各国に広がった。わが国では、1990年に河崎市が市民オンブズマン制度を導入した。